ボリビアってどんな国

南米大陸のほぼ中央、ブラジル、ペルー、チリ、アルゼンチン、パラグアイの5カ国に囲まれた内陸国。標高4000メートル以上の山々が連なるアンデス高地、熱帯雨林やサバンナが広がる低地など多彩な自然環境に恵まれている。人口に占める先住民の割合が高く、現在でも、色彩豊かな民族衣装やフォルクローレ音楽、古く より続く民間信仰など、特色ある民族文化も多い。赤色、茶色、緑色を基調とした横島模様の民族衣装、南米カラーが目に鮮やかだ。
2009年3月から、国名がボリビア多民族国(英語表記:The Plurinational State of Bolivia)に変わった(それ以前は、ボリビア共和国)。


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面積:110万?(日本の約3倍)
人口:986万3000人(2008年国勢調査)
首都:ラパス(憲法上の首都はスクレ)
民族:先住民55%(30を超える民族)、混血32%、欧州系13%(主としてスペイン系)
言語:スペイン語(他にケチュア語、アイマラ語、トゥピグアラニー語)
宗教:カトリック95%(先住民の土着信仰も残る)
気候:冬(5月から10月まで)と夏(11月から4月まで)
政治:立憲共和制(現在の大統領はエボ・モラレス)
産業:農業(大豆、砂糖等)、鉱業(亜鉛、錫、天然ガス等)を中心とした一次産品(総輸出の8割)
移民:2009年は移民110周年(移住者、日系人は11350人(推定)、在留邦人2716人)
注目:リチウム(世界の埋蔵量半分を占めると見積もられている)

国土は大きく3つの地域に分けることができる。

○高原地帯(Alitplano アルティプラーノ):アンデス山脈を中心とした地域。標高3800~4000m、年間平均気温7~10℃、年間降雨量200mm。ラパス(事実上の首都)、ポトシ(植民地時代に栄えた鉱山の町)、オルロ(錫鉱山の町)。国土の20%を占める。
○渓谷地帯(Valle バリェ):高原地帯の東側。北部は高温多湿の亜熱帯性気候。南部は比較的温暖。コチャバンバなど。国土の20%。
○平原地帯(Llano リャーノ):ボリビア東部。北部はアマゾンの熱帯密林、南方はラ・プラタ水系。サンタクルスなど。国土の60%。
*映画の舞台は、アンデス高地のポトシ県北部(ノルテ・ポトシ)。

ウユニ塩湖(Salar de Uyuni)

世界最大の塩湖で面積は約12000?(四国の半分、琵琶湖の12倍にあたる)。南北約100km、東西約250km)。ポトシ県西部、標高約3700m。かつて海の底だったものが隆起してできたのがアンデス山脈だ。海水を閉じ込めたまま隆起したウユニ湖には、約2万年前、気候が温暖になっても溶け出した氷河が川となって外へ流れ出るための出口がなかった。そのため、地中の塩分が溶けた水が、盆地状に溜まり、現在のような塩湖ができあがった。乾季は水が干上がって、地平線の彼方まで白一色、湖面は塩の結晶でできた亀甲模様が続く。雨季には、湖面に溜まった数10cmの雨水が、空をそのまま映し出し、地上にいながらまるで天空の世界にいるかのような錯覚を覚える。この6月にNHK「ワンダー×ワンダー」でも紹介されて話題になった。
ウユニ塩湖の周囲に住む人たちは、塩を国内外に販売している。一般の食用の塩は、湖の表面の塩を削り取り1m程度の高さの小山を作って乾燥させて作る。この塩は近年日本でも購入できるようになった。また、塩原に斧で切れ目を入れ、数10cmないし1m程度の大きさで切り出した塩のブロックは、家畜放牧地にそのまま置いて家畜になめさせたり(家畜のミネラル補給)、ブロックのまま別の塩精製施設に運んだりして使われる。
*滞在中、松下は、ウユニにガン患者がいたという話はきいたことはないと耳にしたという。塩はガンに効く!?

ポトシ鉱山

1545年にスペイン人によって銀の大鉱脈が発見され、ポトシの町が建設された。17世紀の最盛期には人口16万人を数え、スペインを通じてヨーロッパに大量の銀を供給したが、17世紀後半からは生産量が著しく減少し、やがて鉱脈も尽きて衰退。その後、20世紀になって錫鉱山として活気を回復しつつある。外国巨大資本による先住民鉱山労働者への過酷な労働の強制等により、多くの悲劇が起きた。現在は国有化されている。
ポトシの富める山(Cerro Rico de Potosi)の鉱山の中には5000もの坑道(見学できる)が掘られている。トンネルをくぐって行く途中、 Pachamama と Supay(地下の魂・悪魔) の銅像が置かれ、鉱山労働者の安全を祈り、コカの葉が供えられている。

県都ポトシ

16世紀後半から17世紀前半にかけて大繁栄を遂げた後、人々は去って、町は荒廃した。旧王立造幣局など植民地時代の建物のほか、家、劇場、教会、修道院など当時の町並みがいまでも残されている。1987年、ポトシ市街は、UNESCOにより世界遺産(文化遺産) に登録された。ポトシへは、ペルーからはチチカカ湖を通って、チリからはウユニ塩湖を通って行くことができる。
ポトシの町ではメスティソ様式の建物を見ることができる。メスティソは、スペイン人とインディオの混血を意味する言葉。メスティソ様式は、スペインの文化と現地の文化が接触したことで生み出された。インディオの手によるスペイン的な建物や装飾にみられる独特な混合様式のことをいう。衣装や料理、宗教、美術、芸術、音楽や様々な習慣の中にもメスティソ様式を見ることができる。
*キャラバンは、3ヶ月かけて、ウユニ塩湖から、鉱山に立ち寄り、ポトシ県北部の村マチャのティンクを見て、ウユニに戻る。

ティンク

(Tinku)毎年、死者が出るというケンカ祭り(このときに踊る民族舞踏のことだったが、いまでは祭り自体も指す)。男たちは、牛の皮で作ったヘルメットに裸足かサンダルというケチュアやアイマラの戦闘の格好で、血が出るまで殴り合う。豊作を祈り、流れでた血を、母なる大地の神パチャママに捧げるのだ。ティンクの発祥の地といわれるのが、ポトシの町からバスで5時間、マッチャ(Macha)だ。人口2000人の村で毎年5月の2日間行われる。各部落から来た人々は前夜から踊り、歌い、飲み…祭り本番に備える。当日、部落ごとに踊りながら広場周辺を練り歩き、他部落と出会い頭にケンカを始める。
*映画でもマッチャのティンクを撮影した。町の広場で男たちが、ウララと少女たちが山道を、足を踏み鳴らして踊っている。そして、18世紀にスペインの支配に対して先住民による再征服運動を指導したアイマラ出身の英雄、トゥパク・カタリ(Tupac Katari)を讃えるティンク祭りと言っている。

汽車の墓場

ポトシ市街からバスで7時間程かけてウユニ村に着く。ウユニ村から約30分でウユニ塩湖。サボテンが生えている「魚の島(Isla del Pescado)」には、とくに10月から12月、3種類のフラミンゴの群れが集まる。時間によって色が変化する「赤い湖 (色は微生物による)」。標高5000mの火山地域に Gayser(間欠泉)温泉、「リカンカブール(Licancabur)」と「フリケス(Juriquez)」。火山の麓にあるマグネシウムを多く含んだ「緑の湖」。「石の町(Ciudad de Piedra)」、「岩の谷(Valle de las Rocas)」と呼ばれる砂漠地域。そして「汽車の墓(Cementerio de los trenes)」と呼ばれている、かつて鉱物を運搬していた汽車が並んでいる所。

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ケチュアの人々

13世紀末頃、現在のボリビアあたりのケチュアが、アイマラやほかを征服して、現在のペルーやボリビアを中心に広大な領土と高い文明をもつインカ帝国が興った。

先住民

広大な領土と高い文明をもつインカ帝国を築いたのは、およそ3万年前の氷河期にアジアからアメリカ大陸に移住していった人間たちの末裔、つまり日本人と同じ蒙古系の民族とされている。しかし、コロンブスの新大陸発見以降やってきた人々は、アステカを1521年に、インカを1533年に征服し、ことごとく滅亡に追い込んだ。アンデス先住民は鉱山などで酷使され、人口は、征服後40年で、インカ時代の12%に激減したという。
クリオージョ(植民地生まれの白人)は本国への帰属心が消え、本国の支配に反発し、ついには本国からの独立を求める運動を起こした。1809年に独立宣言、1825年スペインから独立。1952年ボリビア革命。1964年軍部クーデター。1982年より民政。
*映画では、先住民の指導者、マッチャ村にほど近いチャヤンタの首長トマス・カタリ(Tomas Katari)を讃える歌が歌われる。

2006年に就任したモラレスは、オルロ県出身の初の先住民出自の大統領。貧富格差の是正、先住民の権利拡大を掲げ、憲法改正の実現を目指し、米国主導の麻薬撲滅政策や急速な経済自由化に強く反対。09年1月に実施された憲法改正のための国民投票の結果、先住民の権利拡大、地方分権推進、農地改革・土地所有制限、天然資源の国家による所有等を定めた新憲法案が61.43%の支持を得た。
*出演者のほとんどが、アンデスの先住民、ケチュアの人々。ほか登場するのは、アイマラの母親と赤ちゃん、ホテル建設をしようとしているメスティーソ。

フォルクローレ

そもそもは「民俗学」をあらわす言葉。音楽的には、とくにアンデス(ペルー、ボリビア、エクアドル、チリ、パラグアイ、アルゼンチン北部)、つまりインカ帝国の領土だった地域の民俗音楽を指す。先住民起源の打楽器と管楽器、そしてスペイン起源の弦楽器とのアンサンブルが多い。アンデスのビエントス(風を意味するスペイン語)といわれるケーナ(尺八型の笛)とサンポーニャ(カーニャという芦を節から切って長さの異なる管を音階順に並べた)、ボンボ(アルパカやリャマのなめしてない皮を張った大太鼓)が先住民起源。きらきらと輝く音色のチャランゴは、17世紀頃にスペインから入ってきたギターから生まれた、5コース10弦のアンデスの楽器(ワシントン条約の制限で、共鳴胴はアルマジロの甲羅でなく木彫りが多くなった)等である。
アンデスの伝承的な音楽を素材とする曲を、ペルーの作曲家ロブレスが1913年に作曲したオペラの中で使ったのが「コンドルは飛んでいく」。サイモンとガーファンクルが歌い、フォルクローレは、一躍世界的になった。
*本作品は現地で撮影収録した、ほんとうのフォルクローレが楽しめる。広い大地でも、葬儀のときも、もちろん祭りには欠かせない。

ファッション

先住民女性のファッションは独特だ。三つ編みにした頭のうえに山高帽をかぶり、何枚ものペチコートをボリュームたっぷりに重ねた上にスカートをはいている。そして、カーディガンの上に色とりどりのショールを羽織る。植民地時代のスペイン人たちが身につけていた衣装のスタイルを取り入れたもの、山高帽は20世紀初頭にやってきたイギリス人がかぶっていたものを真似たといわれている。
男性の場合、地方で農牧業に従事している人のなかに、古くからの伝統が伺えるものがある。昔からの毛織りのポンチョの下にウンクという毛織りのシャツを着て、毛織りのズボンを帯で留めるという服装だ。男性が編んだ毛製の帽子をかぶり、その上につばのあるフェルト製の帽子をかぶる。

ポンチョ(Poncho)

インカ帝国征服以前のアンデス文明のころから利用されている。彼らにとって、ポンチョは寒暖をしのぐためだけではない。旅に出るときは、地元柄のポンチョを着てでかける。土地によって異なる色使い(織)によって、どこの人間かが識別できるのだ。ポンチョは旅の必需品、さながらパスポートである。
*映画に登場するポンチョはウユニ柄ということになる。父のポンチョは既製品を購入、コンドリが着ているのは母親役の女性が手作りしたもの。
*サッカーは南米の子供たちに人気のスポーツ。少年たちがサッカーボールを蹴るシーンでは、靴下をはいている足と裸足がある。靴下を穿いているのは教員の息子で、親は裕福。ノンプロ役者の自前衣裳に、貧富の差が見てとれる。

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先住民の暮し

アルティプラーノの動物

大規模な農業にはあまり適していないアルティプラーノでは、まばらに自生している植物を飼料として、アルパカやリャマといったラクダ科の動物の放牧が行われている。アルパカは、主として毛織の素材とするために飼われている家畜で、リャマは荷物の運搬や毛や皮が衣類に使われたりする。また、寒冷で小雨のアンデスでは木材があまりないため、糞が貴重な燃料として使われている。
*キャラバンを構成する荷物を背負っているリャマのなかに、背に何も乗せていないリャマがいる。アンデス先住民にとって、リャマは特別の存在。これはリャマを疲れさせないため。

アンデス動物保護地区

エドアルド・アバロア (Reserva Nacional de Fauna Andina“Eduardo Avaroa”)。標高4000m、ポトシ県南部の7147?が1973年にアンデス動物保護地区と認定された。冬(5月から8月)は乾季、夏(12月から4月)は雨季。年間平均気温2.3℃、最も寒い時期は5月、6月、7月。年間雨量65㎜。3種類のフラミンゴ、ビクーニャ(Vicuna)、リャマ(Llama)、ビスカチャ(Viscacha)といわれる野ウサギ等、アンデス特有の動物を見ることもできる。赤い湖、緑の湖、ソル・デ・マニャーナ等も近い。
*映画の中でもセリフがあるように、アルマジロ(キルキンチョ)は幸せのシンボル。だから、逃げ出したアルマジロを追いかけているのだ。リャマ、フラミンゴ、アルマジロ、コンドルのほかにも、ビクーニャ、ラバ、羊、豚、犬、鶏、鶏と一緒にエサを食べている鳥、たくさんの動物が登場する。

食べもの

現在世界中で食べられている、アンデス原産の野菜は思ったより多いはず。チチカカ湖周辺部にあたる中央アンデス中南部高地で最初に栽培されたと考えられているジャガイモ、そしてトウモロコシ、唐辛子のふるさとでもある。
*コンドリのお母さんが、唐辛子をすりつぶしてトマトと混ぜあわせている、おじいさんがトウモロコシをゆでている、鉱山近くの女性が豆とトウモロコシとを煮込んでいるなど、先住民伝統の器具を使ってのさまざまな調理シーンが楽しい。

キヌア(quinoa)

アカザ科の一年草。アンデス高地で5000年前から栽培されていた。ヒエに似た種子にデンプンが含まれていて、粉にしてパン状に焼いたり、また粒のまま粥にして食されるなど、重要な食用植物として栽培されている。タンパク質が12%、カルシウムが精白米の7倍、鉄分は精白米の9倍、食物繊維を豊富に含む。また、グルテンを含んでおらず、小麦アレルギーなどを起こすアレルゲンを含まない食品としても注目され、栄養価も高く、現在では健康食品として日本にも輸出されている。?
コカ(coca)
ペルーやボリビアのアンデス地方原産。2000年以上前から利用され、とくにインカ時代には「インカの聖なる植物」としてあらゆる面で使われた。葉が大きく強いものは麻薬の原料になるとして栽培が禁止された(農家は反発している)が、弱いものは面積を限って合法化され、市場にも出回っている。そのままお湯に入れてお茶として飲んだり、くちゃくちゃかんだりする。先住民の文化にとっては、欠かすことのできない重要で有用な植物だ。また、タバコ(学名:ニコティアナ・タバカム)の故郷でもあるが、タバコよりコカ利用の方が盛ん。
*キャラバンの途中、父は水辺でスカスカという薬草を見つけ、山の上に巣を見つけた人から蜂蜜のお裾分けをしてもらう。そして1年ぶりに会ったおじさんと一緒に父はコカを噛んで、チャランゴを弾く。マッチャの村では、男たちが輪になって大きな壺のなかのチチャをかき混ぜている。

チチャ酒(chicha)

アンデスで飲まれているお酒のこと。ふつうトウモロコシからつくられるが、キヌアやピーナッツの酒もある。祝祭や儀礼には、欠かすことのできないもので、現在でも、豊穣や農耕儀礼の前など、大地の神パチャママに捧げるために数滴チチャを垂らしたり、祭りでは、必ずチチャが振舞われる。

※本項は、外務省、在ボリビア日本国大使館、日本ボリビア協会、ラテンアメリカ協会、たばこと塩の博物館の公式サイト上の記述、各国のウィキペディア、松下俊文監督の情報をもとに構成しています。

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